諦めの悪い男、角居勝彦。

■調教師評其の2(角居勝彦編)いつもハナ差で届かない・・・。

 前回、藤沢和雄調教師論に続き、AITOさんの調教師論に乗っかります。
 例に挙がっているルビウスという馬、まさに私の出資馬、プリンセスデザイアと被る馬。普通の調教師なら、ここまで使って貰えずに引退・ないし転厩しているでしょう。少なくとも、これだけのスーパー厩舎の馬房を占める価値を見出すのは難しいレベルの馬です。そんな馬を、執念で勝たせてしまったことで、私の中の角居像はより明確になりました。

 ひとつは、マツクニイズムを継承して、大舞台に強い華やかなエリート若手調教師としての顔。もう一つは、1頭の1勝に何処までも拘る、まるで崖っぷち調教師のような「諦めの悪さ」。この相反する両面こそが、角居さんの特性であり、角居イズムでもあります。

 例えば、カズーや森先生の所にプリンセスデザイアが居たらどうなってるでしょう? 今、現役を続けているとは想像できませんし、デビュー戦以来掲示板はおろか、1秒差以内に来たことすらない。普通に考えれば「終わった牝馬」。この春に繁殖に上がっているのが普通ではないでしょうか。また、そんな成績の馬を、デビュー以来1年半強で15回も走らせています。これは驚異的な数字。今年の春、4ヶ月休養に出た以外、月1以上のペースで使ってくれています。その条件もダート1000・1200・1400・1700、芝1200・1400・1600と多彩。走った競馬場も東京・中山・福島以外の7場。時に坂のないコースを求め、時に相手の軽いレースへ、時に重い馬場へ、とにかく「まだ試してない条件で嵌るんじゃないか」という執念の試行錯誤。その使い方の複雑さについては是非AITOさんのブログで紹介されているルビウスのキャリアをご覧ください。

 一般競馬ファンは、この15戦という数字を見ると驚くのではないでしょうか。角居厩舎の現2歳のラインナップの豪華さはご存じの通り。2歳馬がなかなか入厩してこない反面、プリンセスデザイアやルビウスのような馬のためにずっと馬房を確保し続けてくれています。2歳が増えないのには、ゲートを受からせたあと成長放牧に出すパターンを試しているためというのもありますが、そもそもこの作戦自体が、古馬が多いため2歳に限られた馬房しか割けず、取っている作戦という面もあるように思えます(単純にオペレーションテストでもあるでしょうけど)。

 単に「馬主に優しい」というのとは違います。馬主としてみたら、ずっと入着もおぼつかない馬に飼い葉代を払い続けるより、2歳馬で新しい夢を見たいというのはある種の本音。でもそうしないのですから、これは本当に「諦めが悪い」。でもそうした中から、ルビウスは結果をつかみ取りましたし、プリンセスデザイアも、角居先生が見て、まだ諦めるに及ばないと判断しているのなら、チャンスがないわけではないように思えます。個人的には、これ以上貴重な貴重な馬房を埋め続けるのは心苦しいのですがw これが他の厩舎だったら「勝ち目のない馬引っ張って維持会費が惜しい!」と思っててもおかしくはないのですが、角居先生に関してはそんな感情を抱いたこともないです。それは、日頃のコメントから人柄が窺い知れ、また痒いところに手が届くため、駄目な現状なりに不満を溜めないで済むんですよね。まさにカズーと正反対w

 また、クラブに対する偏見(軽視)のない人でもあります。クラブ馬によって大きく名を挙げたということもあるのかも知れませんが、クラブへの扱いがこれほど公平な調教師、他には思いつきません。一般馬主が文句言わないか不安になるくらいですが、同じく手厚いケアを受けている馬主としては文句言うどころか、なんでしょうね。

 反面、有力馬の故障の多さも有名。これはまさに師匠であるマツクニさんと同じ。この辺は人によって見方がそれぞれ違うでしょうが、私は馬の資質の問題と思います。何処の厩舎だって馬を壊しています。それが目立つのは、それだけスター馬が多いから。ただ今までの角居厩舎に、最高の馬が預けられていたかというとそうは思わず。例えばシーザリオとかでもどこかしら欠陥があったからこそ、キャロットに出て、角居厩舎に行って、そしてあれだけの成果を上げたわけで。確かに故障で引退するスター馬が多いですが、だからと言って「余所なら壊れなかった」とは全く思いません「余所ならここまで活躍しなかった」とは思いますけど。

 次から次へと有力馬を送り出し、多種多様なチャンピオンホースを輩出していく。私は角居先生を「調教師界のサンデーサイレンス」だと思っています。サンデーにも未勝利馬が居るわけですが、それでも「サンデーの子を持っている」という満足感を与えてくれる種牡馬だったわけで。角居先生の所に出資馬を置いているというのも、それに近いモノがあると思いますねえ。先ほど「最高の馬が預けられていたワケじゃない」と書きましたが、それは活躍馬の血統からも確かです。

 高いのはハットトリックくらい(個人馬は分かりませんが、そんな高いとは思えない馬ですよね)。そのハットにしても、兄弟はそれまで余り走ってませんでしたし。シーザリオの母キロフプリミエールも初仔プロトンからずっと期待されていて、諦められかけたタイミング。

 今年の2歳は最高の馬が預けられています。AITOさんも仰ってますが数も多い。この2歳を成功させれば、角居調教師の地位は完全に揺るぎないものになるでしょう。かつて無いプレッシャーの掛かる世代だとは思いますが、何か飄々と今まで通りの仕事をやってのけそうな気もします。変な言い方ですが、ウオッカが居ることで、2歳へ掛かるプレッシャーの矛先が逸れて気が楽かも知れません。いや勿論ウオッカの管理調教師というプレッシャーは大変でしょうけど。いや極端な話、角居さんの中でウオッカとルビウス、プリンセスデザイアの差別化はそんな無いんじゃないかと思うんですよね。

 これから、もっと人気になり、そうすると有力馬と馬房争いをしなくてはいけない上、一口的観点で言うと、クラブが「売れる」と見越してどんどん上乗せ(ボッタクリ)して来るという弊害もあります。それでも、また出資したい厩舎ですし、一口を続けている限り、常に最低1頭は送り込んでおきたい厩舎だと思います。エリンズで残した夢を、プリンセスで作った借りw を、将来の出資馬、もしくはムーンクレイドルで開花させ(返し)たいものです。

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