DSの功罪

■7人に1人「ニンテンドーDS」所有 国内累計1800万台突破

 DSがここまで売れてくれたことには、良い面と悪い面がある。そんなことに関する個人的まとめ。私は評論家ではないし、あくまで主観なので、事情通の業界人が読んで「的はずれだよー」といわれても困るし、一般の方も余り真に受けずに読んで欲しい。あと長いので興味ない人は読まない方が時間の無駄にならずに良いですヨ。
 良い面は、勿論ゲーム人口の裾野を大きく広げてくれたこと。ゲーム業界は20代後半〜30代前半をピークとした、ごく小さいシェアに支えられてきた。その年齢層は、ファミコン登場期に小学生だった層であり、ゲームがライフタイルに組み込まれている層である。

 だが、スーパーファミコンからプレイステーションへと至る進化の道のり(ここでは枝葉であるセガやPCエンジンは置いておく。私個人は枝葉の支持者だけど)の中で、より高度に、よりリアルにとゲームが進化していく中で、どんどんユーザーの中の敷居を上げていき、スポーツ少年も文学少女も普通にプレイしていたファミコン時代から、マニアと呼ばれる人種のみの需要を満たす狭い特化型の市場へ急激に変貌してしまった。ある意味、ゲームを支える市場としては正しいとも言えるいわゆるマニア層・オタク層。だが、この層の求めるものは大衆化した娯楽ではなくオンリーワンの娯楽。その狭いコミュニティの中での共有性(余談だが最近はオタク層も流行ものを追うのに大忙しだが、何かオタクとしてのプライドがないのか、と言いたくなる。人と被った時点でオタクは死を選ぶくらいの求道心を持って欲しいものだ)。そうしたものと相容れない低齢層・高齢層はふるいに掛けられるが如く、他の数多い趣味性娯楽に移行していった。

 結果、ゲームはどんどんその守備範囲を狭めていき、カルト化し、相容れない多くの層から白眼視されるようになっていく。それはアニメの辿った道と同じだ。プレイステーション2でも、任天堂の主力ハードでもその流れは止まらず加速し、ゲームボーイを軸とした携帯機市場も、ごく一部のソフトを除き、マニア性の産物になってしまった。ゲーム業界は潰れはしないまでも、ごく少数のユーザーを満たす、ごく少数のクリエイターしか生きていけない市場に成り下がった。

 閉鎖的になっていく市場を打開するために「ライトユーザー層へのアピール」を謳う企業。しかし、根本的にライトユーザーというのは、付くのも早いが離れるのはもっと早い、決して業界の経済基盤にはなりえない層。そこに媚びたメーカーは結果として色を失い、カルトな層からの支持を無くして、消えたり、変節してしまったりした。そうしてヘビーユーザーを徐々に食い潰す悪循環に入っていたのが、ここ数年のゲーム業界。

 そこへ、DSの登場。当初前時代的にすら思えたこのハードには、ゲームを一時期離れた潜在的ゲーマー層(いわゆるライトユーザーとは違う。ライトユーザーは流行ったゲームをプレイしては通り過ぎていく人種で、ここで指す潜在的ゲーマー層は他の趣味や仕事によってゲームをプレイする時間が押し出された人種。ライトユーザーよりずっとゲームに対する親和性は高い)を気軽にユーザーにさせる「圧倒的な敷居の低さ」という素晴らしい武器があった。

 その敷居の低さを活かしたソフトが次々に登場(代表作は「どうぶつの森」と「脳トレ」シリーズから始まる一連のエデュケーションソフトだろう)。今や、ごく少数のゲーマーと呼ばれる人種には明らかに属さない、ぱりっとしたOLやサラリーマンが電車でDSをやっていても何の違和感もない時代になった。DSはある意味、ゲームハードの枠を超えて携帯電話に近い存在になったと言える。また、公園などで子供がポケモンで遊ぶ光景を10年ぶりくらいに見たりもした。従兄弟の小学生に話を聞くと、DSを持ってないと学校で友達に入れてもらえないらしい。ゲーム業界で久しく聞かなかった現象だ(ゲームボーイ最盛期の現象に近い。私が小学生の頃には、ファミコンを持ってる子はヒーローだった。持っていないと友達に入れてもらえないものは、キンケシだったり、野球のグローブだったりした)。消えかけていたゲーム業界の火は、DS色に燃え上がっている。

 その一方、DSの存在と認知度の高さによって、DS以外のハードはより差別化を図られることになっている。次世代機と言われるPS3・XBOX360・Wii。

 PS3は今度出る「みんなのゴルフ5」で延命を測れるだろうが、一般的ユーザーから見て「過剰なスペックと値段の無駄なハード」という印象はもう拭えない。みんゴルにしても、本体と合わせて6万円をぽんと出せるユーザーは限られる。興味はあるが、そこまでの価値を感じない多くの潜在ユーザーを捕まえる第2第3の魅力はゼロに近く、未だPS2主流の開発業界との折り合いも付いていない印象。恐らく来年には大きく値下げするだろうが、それも良質のソフトとタイミングを合わせないと、あまり効果が見込めるとは思えない。それこそみんゴルのタイミングが最後のチャンスだと思ったが…。PSPは最早マルチメディア再生ツールとしてしか価値が見いだせない。移植だけではコアユーザーも付いてこない。

 360は元々XBOXというハード自体が日本を腰掛けとしか考えていない。それ故の優雅なプロモーション。そこに惹かれるスーパーマニアなユーザーをしっかり掴んでいるため、安易に市場が崩壊することはないが、その需給は「ナンバー2ないし3としての地位固め」以上でも以下でもなく、結局はメインハードにハイするカウンターハードとしての存在価値を超えることはない。往年のセガの道を、更に低空飛行(かつピンポイント爆撃で)で進んでいるだけだ。そしてその層はPCゲームなどの守備範囲にも近く、結局はお金と時間のある限られた層だけが商売の対象になる。そのカテゴリでPS3には勝てるだろうが、その先はない。今後のXBOXは「ナンバーワンハードへの野心を抱かないこと」が存続の鍵になるだろう。

 そしてWii。鳴り物入り任天堂が出したこのハード。スーパーファミコン以降の「失敗ハード」と比べると、明らかにレベルの高い企画であるのは確かだし、DSで培った幅広い年齢層へのアピールも上手くできている。だが致命的に供給が追いつかなかったのと(作戦との見方もあったが、既に時機を逸しており、明らかに計画不足だった)、これもPS3同様ハードごと買わせるパワーのあるソフトがない。ゼルダ・マリオで売れる時代は10年前に終わっており、以降のソフトもそこまでの爆発力はない。結局は、PSに主権を奪われていた長い時代からまだ完全にリハビリを終えておらず、加えてパートナーとなるべき自社ハードのDSに新規層を丸抱えされて伸び悩んでいる。唯一、ブレイクの可能性のあるハードだとは思うが、DSとの連動など、ある種の「妥協」が必要では無かろうか。

 そんな次世代機市場に対して、DSはというと、現在が盤石な分、未来には「現状維持」しかないのも事実だ。先にも書いた通り、DSというハード自体は非常にローテクなもので、これ以上の進歩進化はないレベルのハード。作る側にとっては、色々な企画や、新規参入がしやすい面、限られたギミックの中でのアイデア以上のものが投影しづらく、はっきり言って作り手の成長を促すハードではない。今後は、いくつかの超大手メーカーを除き、「作り手を使い潰しながら」維持していくハードのなるだろう。それはある意味、ユーザーの入れ替えとも一致する流れで健全と言えば健全だが、「長年の蓄積から生まれる会心の作品」みたいなものの生まれてくる余地は、どんどん小さくなり、期待値通りの60〜80点のソフトが安定供給されることになるだろう。

 というのが、DSの悪いところ、「罪」の部分。ユーザーには関係ない話かも知れないが、ゲームメーカーは今相当疲弊しているというのは間違いない事実。好きなメーカーがあったら、是非愛情でもって応援して支えてあげてください。まさかというタイミングで、ここ数年も、今後もメーカーは潰れていくと思います。それは仕方のないことですが、好きなメーカーがある人は、今のうちからそのメーカーがないゲーム業界との付き合いを考えておくか、無くならないようファンとして出来る支援を様々な形でするか。どちらかをすると良いのではないかと思いますよ。メーカーも元気なウチに人気タイトルの続編はどんどん出すべきかも知れませんねえ。個人的には続編商売は余り好きじゃないですけど。良く作ってて飽きないものだと思う。

 あとは、アニメ業界で言うところのジブリ作品とか、エヴァンゲリオンみたいなものが今後まだ出てくる余地があるのか、でしょうね。ドラクエでもFFでもない何かが。結局は、ハード市場を動かすのはRPGですよ。その他全てのジャンルでは地殻変動は起こせないです。

 ちなみに、我が家におけるゲーム機(ゲームをするハードとしてのPCも含む)の稼働率はおおよそ、PS2(10):PC(7):DS(3):Wii(1):PSP(1)くらい。一般的にはどんなもんだろう?

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