船戸明里。

僕の一番好きな漫画家。絵の好み、ストーリーの好みもあるが、一番氏の「好きなところ」は心の闇を書き出す巧みさ。

エンタテイメントというモノは、必ず主人公なり登場人物なりが不幸になる。それは文字通りの「不幸」であったり、苦難・挫折であったりするが、これの存在しないモノはエンタテイメント足り得ず、その先の結末には「不幸を乗り越えてハッピーエンド」「不幸の影響でバッドエンド」しか原則的には存在しない。

日本のエンタテイメントは、逆境を跳ね返して勝利をつかみ取るという不文律があるが、欧州などでは、比較的不幸に負けるパターンのエンタテイメントが多いように思う。それはエンタテイメントという虚構から救いと喜びを見いだしたい日本人と、教師にしたい欧州人の差かもしれない。僕は教師としてのエンタテイメントの方が好きだ。

船戸明里の描き出す愛くるしいキャラクターは、ほとんど全員がその光の強さに匹敵する・勝る闇を持っている。その闇を全編に織り込み、「光を引き立たせるための闇」として利用するのではなく、「闇の深さを気づかせるための一時的な光」を次々に繰り出してくる。その巧みさ(闇の深さを強調するために「子供の無垢」を光に用いて、後、絶対値をがらっと反転させる)は、僕の知る限り、小説家・漫画家・映画監督・その他エンタテイメントの発信者数多かれど、船戸明里に勝る人はいない。僕の中で船戸明里は「孤高のネガティブ作家」で、これからもその恐ろしい作品でもって、僕の闇をえぐり続けて欲しいと願う。

自らの光を誇る人間は、闇の重さに耐えられず、闇を知る人間は一時期の光に惑わされない。そういうことだ。船戸明里の作風はそのまま僕の人生哲学であり、「お前調子に乗ってない?」と僕を諭す悪徳の教師である。船戸明里という作家がいて、「Under the Rose」という作品を綴り出すことは僕にとって得難い幸福である。感謝する。

Under the Rose (3) 春の賛歌 バースコミックスデラックス

Under the Rose (3) 春の賛歌 バースコミックスデラックス

人によってはさらっと読み流すだろうし、逆に酷く鬱になるかもしれない。でも読むことをお奨めする。特に大人にお奨めする。読んで心を抉られなさい。

でも「若草一家」とかも好きなんだよね〜。「ヴェーン飛空船物語」が一番だけど。これはLUNARやってない人はぐっと来ないかも。ああ〜船戸さんの描くキャラクターの笑顔は最高だよ。だから怖いんだ。

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