待ち望んだ一冊。

木村元彦。ユーゴを題材にした本は数多いし、その多くを買って読んできたが、氏ほどユーゴ国民の「ありざま」を赤裸々に描き出している人は居ない。それは氏がサッカーというユーゴになくてはならない文化を通じて、その代表的な選手は事件を通じて描写しているからだろう。

稀代のスーパープレーヤー、ドラガン・ストイコビッチの半生、日本での復活を描いた「誇り」。ユーゴ代表が政治、NATOとチンピラアメリカの捏造とテロに母国が蹂躙され、引き裂かれ、フットボールを奪われ、フランスの舞台に返り咲くまでを描いた「悪者見参」。

この2(3)冊を通じ世界一美しいサッカーを描き出した氏に、新たにモチーフにして欲しい人物は、カタネッツオシムの両名。そのオシムの本が遂に出た。

心して読んだ。痺れた。あの真綿にヒタヒタに水を染み込ませたような、軽いんだか重いんだが分からないオシムの言動。その中に染み込んでいるのは水ではなく矜持だと思い知らされた。90年にユーゴが見せたあの素晴らしいサッカーの、かつて降格は時間の問題だった負け犬ジェフが、今見せている恐ろしいまでの威圧的なサッカー。その神髄に僅かながら触れることが出来る名著。オシム語録の重みも裏に込められたメッセージを見取ることでより深く味わうことが出来る。氏のユーゴサッカー3作の中でも一番面白い。サッカーファン、Jリーグファンには広く読んで欲しい。そのかわり半端なサポーターだとジェフ応援しちゃうかもしれないw

(あと、サッカーとは少し離れ、蹂躙されたユーゴの有様をひたすら書き綴った「終わらぬ民族浄化」も、他3冊に満足したら読んで欲しい。アンダーグラウンドも見て欲しい。特にアンダーグラウンドは見てると見てないでは、ユーゴサッカーを見る際の姿勢が変わってくる。ワールドカップの前に是非!)

アンダーグラウンド [DVD]

アンダーグラウンド [DVD]

これ。私が古今東西で最も愛する映画です。素晴らしい映画。見て。
ちなみにこの本で書かれている「人質交換」の映画はこちら。
http://www.gaga.ne.jp/lifeismiracle/
早くDVD出ねえかなあ。あ、クストリッツァは今度マラドーナのノンフィクション撮るそうで。それもたまらん!

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