桜花賞と皐月賞をキングカメハメハ産駒が制覇したことで「やっぱディープよりキンカメ。今年はキンカメ買わないと!(≒指名しないと!)」とかネットでよく見かけます。桜花賞は特殊すぎるレースで、勝ち馬の評価難しいし、ドゥラメンテはキンカメってよりエアグルだし、私的にはG1で起きていることは一過性の盛り上がりとしか見ておらず、騒ぎを「こういう人は半年前まで『ハービンジャー祭りじゃー!』って言ってたんだろうなあ〜」とか横目に眺めていたのですが、案外私の周りでも今になって「キンカメ凄い」と見直している方が多いので、突っ込む前に、例によってこの辺を印象で済ませては身にならないので、自分勉強も兼ねて軽く気になるところを調査した上で、自分の意見をまとめておきます。
まず前置きとして、皆さんご存じなディープとキンカメの共通点。
- 「ノーザンファーム生産」
- 「セレクトセールで金子さんが落札」
- 「決して超高額ではない」
- 「ダービー馬」
- 「国内では1度しか負けていない」
- 「若くして引退している」
- 「自身以降の弟妹に重賞馬が居ない」
- 「母父ノーザンダンサー系」
- 「種牡馬デビューから連続で2歳リーディング」
- 「種牡馬デビューから3年目に総合リーディング」
「金子さん凄い!」は今更だけどいつでも言っておきたい台詞。で、今年の種牡馬成績。
出走数 | 勝ち数 | 賞金 | 1走当 | 1頭当 | 勝馬率 | EI | |
---|---|---|---|---|---|---|---|
キングカメハメハ | 722 | 83 | 1,745,949,000 | 2,418,212 | 5,632,094 | 0.232 | 1.83 |
ディープインパクト | 632 | 58 | 1,740,262,000 | 2,753,579 | 6,021,668 | 0.183 | 1.96 |
重賞勝ち数はキンカメ6:ディープ4でG1も2:0。その差が出てる形ですが、+25勝していてもG12つ(ホッコータルマエの川崎入れれば3つ)勝っていても1頭あたりの賞金はディープ。特別勝ちの数はどちらも21で、G1の印象を除いてしまえば、キンカメが下級条件やダート中心に数を重ねている結果とも言えます。単純に第1世代が9歳のキンカメと7歳のディープでは古馬の層が違うのも事実ですし、ディープ産駒が3歳を迎えた11年以降、EIでは常にディープが上ですからね。手数で勝るのは息の長いキンカメの良さでもあるでしょう。
その上で、私が気になったのは、世間の印象のように
「ディープ筆頭にするSS軍団を負かしてリーディングに返り咲く勢いのキンカメ!」
ってことではなく
「キンカメの成功って今更騒ぐことなの?」
ということ。
参考までに、データを2つ。まずはリーディングベスト20種牡馬を、SS系と非SS系に分けて年毎に合計してみました(母父SSのアドマイヤムーンはややこしいので除外・単位は億)。
年度 | SS系賞金 | 非SS系賞金 |
---|---|---|
2010 | 169.5 | 178.0 |
2011 | 188.5 | 169.6 |
2012 | 227.1 | 146.2 |
2013 | 229.8 | 127.5 |
2014 | 247.6 | 122.0 |
2015 | 65.2 | 46.2 |
2015? | 217.3 | 154.0 |
ディープが種牡馬デビューした2010年から、年々非サンデーが劣勢になってきているのが見て取れますね。ディープ一頭の力ではなく、それまでもタキオンやフジキセキが首位争いしていたわけですから、非サンデー種牡馬がどんどん劣勢になってきているのは明らかです。勿論、21位以下の層は圧倒的に非サンデーの方が厚いわけで、この数字が競馬界全体の動向ではありませんが。
で、最後の「2015?」が、今の成績が年末まで推移したら、という前提の数字(全馬に同じ係数を掛けて年間開催相当を算出)なのですが、見てお分かりの通り、2014年比でサンデーが-30億なのに対し、非サンデーが+30億とわかりやすい数字。これだけ見ると「SS系のシェアを非SSが奪い返した?」とも思えます。でも実際はリーディング上位級のSSはほとんど成績落としておらず、下位の数字がSS系<非SS系になった結果の数字なんですよね。
その辺細かく見るために次のデータ。2010〜15年で2回以上リーディングベスト10に入っている種牡馬の年別賞金推移(単位は億・並びは2014年リーディング順・カッコは順位)。
種牡馬 | 2010 | 2011 | 2012 | 2013 | 2014 | 2015? |
---|---|---|---|---|---|---|
ディープインパクト | 05.4(35) | 24.6(02) | 50.3(01) | 54.6(01) | 67.7(01) | 58.0(02) |
キングカメハメハ | 37.1(01) | 41.5(01) | 44.7(02) | 40.0(02) | 39.8(02) | 58.3(01) |
ハーツクライ | 02.5(55) | 11.0(16) | 16.4(09) | 21.6(05) | 32.2(03) | 28.0(03) |
シンボリクリスエス | 23.9(03) | 24.2(03) | 23.0(04) | 22.1(03) | 22.0(04) | 14.3(11) |
ダイワメジャー | − | 04.5(35) | 19.0(07) | 21.8(04) | 21.7(05) | 23.0(04) |
ネオユニヴァース | 18.6(09) | 20.7(09) | 15.6(11) | 18.4(09) | 20.1(06) | 16.7(10) |
マンハッタンカフェ | 22.9(05) | 23.2(06) | 16.0(10) | 20.3(07) | 18.6(07) | 20.3(05) |
ステイゴールド | 13.3(13) | 23.4(04) | 24.4(03) | 21.1(06) | 18.1(08) | 20.0(06) |
フジキセキ | 24.7(02) | 20.1(10) | 19.7(06) | 19.2(08) | 16.8(09) | 07.7(21) |
ゴールドアリュール | 10.0(18) | 11.3(15) | 13.6(14) | 15.9(11) | 16.7(10) | 19.7(07) |
クロフネ | 23.7(04) | 23.4(05) | 20.9(05) | 18.1(10) | 16.7(11) | 19.3(08) |
アグネスタキオン | 21.5(06) | 21.1(08) | 17.2(08) | 15.4(12) | 10.5(15) | 04.7(37) |
ジャングルポケット | 17.4(10) | 21.3(07) | 11.6(15) | 15.8(13) | 09.2(16) | 10.0(14) |
2015?は前述同様。ディープはG1で勝てていない割には数字は落ちてないことが見えますね。サンデー系は引退したり死んでしまったりした種牡馬のシェアをハーツやダメジャが食いつつ、他の種牡馬は比較的安定しています。ディープも含め、SS系の特徴ってのはその年に大物出る、出ないはあるにせよ数字の上では上下動が少ないってのが分かりますね。
一方で非SS系はクロフネ、シンボリクリスエスが牽引してきましたが、キンカメの台頭でクロフネが地盤沈下し、大物に引っ張られていたシンボリクリスエスも徐々に下降気配。それに続くグループのジャングルポケットやタニノギムレットは一足早くベスト10圏外に移行しています。今の非SS系の成功はSS繁殖のアシストが不可欠なので、そのシェア争いはSS後継種牡馬以上に厳しく、その中で1強体勢を築きつつあるキングカメハメハは、別格の種牡馬と言えます。クロフネは10位前後に踏みとどまっていますが、ボリクリも早ければ今年、遅くとももう2・3年でその辺に落ち着きそうで、ハービンジャーなどの新種牡馬も、ベスト10に入れば御の字、という流れになりそう。それだけキングカメハメハの牙城は高く、SS系の層は厚い。今年はハービンジャーに茶々入れられる中での数字なので、ホント立派ですね。
さておき改めて見ていただきたいキンカメの残してきた数字。注目したいのは2012年。ディープが4歳を迎え、一気に賞金を倍増させる流れの中、キンカメは上位ランク種牡馬でほぼ唯一数字を伸ばしています。この時点で「ディープに対抗できるのはキンカメだけ」というのはある程度見えていた傾向だと言えないでしょうか。キングカメハメハは世間的な評価ではSS時代のトニービンやブライアンズタイムよりワンランク低い印象もあるのですが(それは今の一過性の爆発で世間が騒いでることからも窺い知れる)、実際は彼らに匹敵する超A級サイアーなのです。
思い出してもいただきたいのですが、SSの直子がいなくなってから、SSが持っていた年間60億70億の賞金がどう分配されるかみんな注目してましたよね。蓋を開けてみれば、2008年にリーディングを獲ったのはアグネスタキオンでしたが、その総賞金は33.5億。翌09年のマンカフェは25.6億。結果として、サンデーの勝ち星がみんなに分配されて、ドングリの背比べに近い状態になっていました。
このまま群雄割拠へ突入か、と言う空気の中、出てきたのがキングカメハメハ。09年に2世代のみでリーディング8位に食い込むと、翌年は37.1億でリーディング。タキオンやマンカフェのリーディング時年間賞金を楽々クリアしました。翌年には41.5億で、サンデーサイレンス登場以降、初めて年間賞金40億を超える種牡馬になりました。
この時点でキンカメは大変な種牡馬だ、と皆気づいていたとは思うのですが、その印象を曖昧にしていたのが、超A級=S級を凌駕する、文字通り「SS級」サイアーのディープインパクト。キンカメが2年目8位だったのに対し、早くも2位。翌年は50億オーバーで首位に。キンカメが誇る(?)「サンデー以来唯一の40億サイアー」という看板を吹き飛ばしてしまいました。更に数字を伸ばし、14年は父の領域に限りなく迫る67億という数字を残します。繰り返しますが、ハーツの32億を筆頭に、SS以後ディープ以前であればリーディング級の成績を残す馬がいる中での数字で、決して競争相手が弱くなったわけではありませんし、母父SSを相手にしなければいけない、という意味では父以上に厳しい状況で残した数字とも言えます。
話は戻りますが、キンカメはディープが居なければ普通に今、50億オーバーを毎年残すダントツのリーディングになっていたでしょうし、もっと高い評価を受ける種牡馬だったでしょう。少なくとも、シンボリクリスエスやクロフネ、ハービンジャーあたりと比べるレベルじゃないって認識はもっと早くに進んでいたと思います。今期前半の成績で「キンカメ凄い!」となってる人には、改めて「ずっと凄かったよ、見てたでしょ」と言いたい。そしてディープはキンカメが居なければ父と同じくらい稼いでるでしょう。いつまで経ってもディープを認めない天の邪鬼は反省して欲しい。今自分の中で歴代種牡馬ランクを作るなら1位サンデー2位ディープ3位キンカメ4位トニービン5位ブライアンズです。4位5位は純粋な種牡馬実績だけだと入れ替えても良いかもしれませんけど。一流牝馬が繁殖まで含めて残す印象は結構大事ですからねー。
キンカメの楽しみなところは、ロードカナロア、ルーラーシップ、あるいはホッコータルマエなど、後継種牡馬の一軍がSS入っていない馬ばっかりって所ですよね。これらは母父SSの力を借りられるだけじゃなく、母父ディープの力も借りられる。言わば二段ロケット。父が果たせていないSS越えを孫世代が成し遂げるかも知れません。相手はオルフェーブルやジャスタウェイも加わり一層層が厚くなりますが、日本競馬にキングカメハメハ系を築くべく、本馬ともども頑張って欲しいですね。
最後に、一口ベースでのディープ・キンカメの比較データを。それぞれの獲得賞金上位順に、一口募集馬のみを並べてみました(馬名後ろのカッコは全産駒中賞金順位)。
順位 | ディープ産駒 | クラブ(募集額) | 賞金 | キンカメ産駒 | クラブ(募集額) | 賞金 |
---|---|---|---|---|---|---|
01 | ジェンティルドンナ(01) | サンデーR(3400) | 13.26 | ロースキングダム(02) | サンデーR(8000) | 6.95 |
02 | リアルインパクト(06) | キャロット(4000) | 3.96 | ロードカナロア(03) | ロード(2625) | 6.70 |
03 | ハープスター(07) | キャロット(4000) | 3.60 | ルーラーシップ(05) | サンデーR(18000) | 5.50 |
04 | ラストインパクト(11) | シルク(3500) | 3.00 | トゥザグローリー(06) | キャロット(12000) | 4.65 |
05 | ディープブリランテ(12) | サンデーR(4400) | 2.92 | ベルシャザール(07) | 社台RH(4000) | 3.51 |
06 | マルセリーナ(15) | 社台RH(4000) | 2.69 | ソリタリーキング(08) | サンデーR(16000) | 3.02 |
07 | ドナウブルー(16) | サンデーR(3200) | 2.63 | グランドシチー(12) | 優駿(2600) | 2.61 |
08 | ワールドエース(19) | サンデーR(10000) | 2.14 | トゥザワールド(13) | キャロット(10000) | 2.60 |
09 | エキストラエンド(21) | 社台RH(8000) | 19.4 | フィフスペトル(14) | キャロット(4000) | 2.54 |
10 | キャトルフィーユ(22) | ロード(3675) | 1.88 | ディアデラマドレ(23) | キャロット(3200) | 1.88 |
一目瞭然なのは活躍してる一口キンカメは超高額馬が多いってことですね。ディープの高額馬が走っていないわけではないですが、G1に届いていないという意味では、価格と期待度を考えるとうまくないです。一方のキンカメは、超高額馬でも自信あれば踏み込んでOKと言えるかも知れません。高額帯は全馬G1級繁殖なので、新しい繁殖で高額な馬はちょっと眉唾? 逆に血統馬で安い馬もやや胡散臭いですね。ディープは比較的目新しい繁殖が多く、「○○の下」みたいなプロフィールよりはフレッシュさと手垢付いていない感を重視してみても良いかもしれません。いずれにせよ高額ゾーンは明確に結果出るまで過信禁物でしょうかね。
もうひとつ、一口界隈のキンカメは圧倒的に牡馬優勢。牝馬ではディアデラマドレが1位ですが、重賞勝ったのはこれとレディアルバローザだけ。安い牝馬でG3くらいを狙うイメージなら良いですが、アパパネやレッツゴードンキのイメージで牝馬を狙うのはリスキーと言えそう。一方のディープはベスト10に牝馬5頭。こちらは性別関係なく狙えます。もっとも、高額帯の重賞級は牡馬偏重なので、牝馬は牡馬以上に高馬眉唾大事そうです。
まあそんなわけで。途中から何を調べてたのか自分でも半分忘れてましたがw 言いたかったのは「キンカメはずっと凄いので別にブレイクじゃない」ってことと、「ディープは依然凄いので低迷もなにもない」ってこと。あとは「この2頭は別格なので、他の種牡馬を並べて評価するのは間違い」ってところですかね。以前のロブロイフィーバー。最近のハービンジャー祭り。踊るのは自由ですが、そのランクの種牡馬かどうかってハードルは自分の中でもっと高く持って、牧場やマスコミ主導の煽りを真に受ける前に吟味しましょうねってこと。POGはまだ趣味の世界なので良いですが、一口者としてはこうした流れに踊らされるチョロ会員にならないように、私もしっかりしておきたいところです。ディープに逆らうのがカッコイイ、なんてのはチョロ中のチョロ。ましてや「ディープは高いから」とキンカメなのだとしたら、益々あり得ないよね、ってことで。2強産駒以外でディープ・キンカメ級の価格帯の馬は基本的にはあり得ない。その馬が例外中の例外なのか。吟味をしっかりして募集時期に備えたいです。私も過去5年くらいのキャロカタログ見返して勉強しよう。
POGドラフト終わってからエントリしようかとも思ってたネタなのですが、ディープ<キンカメになるのはこのタイミングだけな気がしたので、ある意味旬ネタとして放り込んでみました。