五輪サッカーに関して。

 ちょっと遅くなりましたが、仕事が一区切りしたので五輪サッカー男女に関する所見。結果至上主義&感動したーという方には水を差す内容だと思うので、折り返し&注意しておきますー。


 まずはなでしこ。北京の4位、W杯の優勝に続きこの銀で、完全に世界の強豪入りを果たした感がありますね。実質、米・ブラジル・日本の3強という感じでしょうか。ブラジルとは、やっても負ける気がしません。向こうも日本みたいな相手は非常にやりづらいでしょう。今後も日本が余程谷間に入らない限り、精神的優勢を保って戦えるのではないでしょうか。


 一方でアメリカに対しては、改めて「普通に勝てる相手じゃないなー」と認識。特に今回のなでしこは中盤の優位性が築けてませんでしたので、身体能力の差を埋める術がほとんど無かった感じですね。守備には穴のあるアメリカチームでしたが、あの素晴らしいGKを崩すには意外性も必要。宮間が「騙せる」位置にいないと、もしくは一瞬で相手の予測を上回る川澄がゴール近くにいないと厳しい。


 その川澄のポジションも含め、今大会のなでしこは「勿体ない」と感じることが少なくありませんでした。川澄はサイドでも有能な選手ですが、ゴールに近いところから下がってまた出て行く方がより有効だと思いますし、サイドでその働きを求めるなら大野の方が下がったところから上に出る魅力にも勝る。前回の、右に大野、左に宮間のチームの方がずっと良く見えましたね。宮間は左の方が良い感じです。


 何より左SBの守備の穴を埋める労力で川澄の切れ味が徐々に奪われてしまうのは、明らかな采配ミスと言えるでしょう。鮫島は…W杯の時は、欠点の多い選手だけどそれ以上に魅力も感じたのですが…短い間に、何でこんなに劣化しちゃいましたかね。攻撃時、良いポジションに居るんですが、いざボールを持つとほとんど何も効果的な仕事が出来ないので、味方からもボールが出なくなる。囮としての有効性を下げる。守備では非常に淡泊な1対1と、視野の狭さで完全に穴になっている。あれなら、矢野のような守備力に優れる選手で蓋をしつつ、左前線の選手の負担を軽減する方がチームとしては理に適っているでしょう。かつての男子サッカーの加地や今の鮫島のような選手。こういうサイドバックは、何故評価されるんでしょうかね? 私には理解しがたい部分があります…。鮫島はもう一化けしないかな、と期待するところもありますが…その為には不動のレギュラーという過分なポジションを見直すところから始める必要がある気がします。


 ボランチもそうですね。澤は、年齢を考えると流石の出来ではありますが、良くも悪くも責任感が強すぎるためか、チームより個(理論より感覚)で相手に向かっていくことが少なくなく、それで効果的なボール奪取を出来ればチャンスになりますが、抜かれると大きな穴が開きます。元々そういう選手でしたが、今大会はいよいよピンチを招くシーン方が目立ったか、消えているシーンが長くなった気がしますね。消えた要因には、宮間のポジションの不適切さもあるかと思いますが、阪口の出来もあったと思います。今大会の阪口はあまり良くなかったですね。個の要因か、組織によるものかは分かりませんが、今までの阪口ほど効果的に働けていませんでした。澤のイマジネーションが空振りしたときに生じる穴を埋めきれませんでしたね。後半はスタミナ切れして1対1で対処できないケースも目立ちました。田中はまだ、信頼度としてこの2人ほどの存在ではないかも知れませんが、田中+どちらかという組み合わせを、もう少し早期に試せれば、フランスにあそこまで苦戦しなかったでしょうし、決勝も五分以上の戦いが出来たかも知れません。


 大儀見も個人能力では切れていましたが、彼女が個で勝利を納めた後の連動性がなかったですね。あれではチームのFWとしては評価しづらい部分もあります。元々、細かいプレーは雑な選手なので、敵にも味方にも予測できないこぼれ球が生まれる。それを行かせる嗅覚と俊敏性のある選手が近くにいて、大儀見もチームも生きる。やはり、川澄ともっと近い距離でプレーして欲しかったです。


 監督に関しては、女子チームを中長期に渡り率いて、個の結果を出したことはもう偉業として讃えるべきだとは、素直に思います。ただ、やはり選手交代やスタメンの選び方に関する疑問は最後まで拭えませんでしたし、「引き分け狙い」に象徴されるような尻(口)軽さと、選手の制御能力は残念です。引き分けを狙うのは当然として、それを言ったり、選手に言わせたらおしまいでしょう。結果的に大成功のドローでしたが、あの試合後のやりとりで、銀メダルがややさび付いたのも事実。惜しい。


 まあ、色々ありますが「澤後」のチームも徐々に見えてきましたし、若い選手も楽しみ。このチームは今後も大いに楽しみです。次の監督さんにも頑張って欲しいですね。一度、代表選手をフラットに見直す作業から初めて欲しいです。今後はW杯で苦戦したイングランドや、急成長を続けるフランスもかなりの強敵になるでしょう。是非更にスケールアップした代表チームで打ち負かして欲しいですね。



 さて、男子です。私は、紆余曲折ありましたが今回の男子チームがメダルを取らなかったことに心から満足しています。繰り返します。メダルを取らなかったことに、です。


 アトランタを目指したチーム以降、プロ化の流れと、日本人特有の五輪至上主義にも乗って、五輪チームも年々進化してきました。個々の能力や相手関係が結果には影響する部分もありますが、アトランタよりシドニーシドニーよりアテネアテネより北京と、五輪チームとフル代表の差は縮まり、魅力ある若手が先に繋がるサッカー、プレーを見せてくれる五輪代表にはワクワクしてきました。


 今回のチームは、メキシコ以来のメダルに手を掛けた一方で、アトランタ以降の日本サッカーの進化を全否定してくれました。


 今大会は守備的だったと言われますが、それは結果として守備から入る、というよりは守備の安定感を土台に効率よく点を取るメキシコと韓国がメダルを手にしたからで、むしろ組織がしっかりしているチームが結果を出した大会だったと言っていいと思います。


 その中で日本のサッカーはどうだったのでしょうか。スペインを倒し、モロッコをスーパーゴールで下し、決勝Tでもエジプトを圧倒した。守備的ではありましたが圧倒的なプレスと効率の良い攻撃で勝ちあがるという意味ではメキシコ、韓国と並んで今大会を象徴するチームとして讃えられてもおかしくはないかも知れません。しかし、それはあくまで結果という材料が伴ってのもので、内容はメキシコ、韓国とは雲泥の差でした。


 序盤から見せる素晴らしいプレッシング・チェイシングで相手のリズムを壊し、早期に点を取り、相手のパフォーマンスを発揮できない状況に追い込み、逃げ切る。形を見れば理に適った戦術とも思えますが、その実はペース配分をまったく考えないフルスロットルで試合に入り、相手の自滅に期待するだけのサッカー。相手がそこを凌いでしまったモロッコ戦、メキシコ戦は、その後の無策さだけがひたすら目に付き、あまりにも無様で、愚かで、幼稚なチームだったと言わざるを得ないでしょう。


 弱者が強者を倒すいわゆる「ジャイアントキリング」にはある種のラッキーも必ず必要だとは思いますが、今回の日本チームはまず最初でとびっきりのラッキーに恵まれた。スペインがこれだけふわっと大会に入ってきて、初戦に当たり、あの時間に点を取り、退場者を出す。これだけの運に恵まれることは10年に1度もないでしょう。これは本当の奇跡です。マイアミを上回る奇跡。事故と言っても良いですね。


 とびきりのラッキーは、百難隠します。日本はこれで、予選からずっと連なっていた、このチーム、この監督の限界から目を逸らされてしまいました。恐らく選手達も。圧倒されたモロッコ戦も、終盤の奇跡的なゴールで勝ちきった。守備の奇跡に攻撃の奇跡が乗っかった。これで自信をつけてしまいました。ネームバリューと個に遙かに勝る相手と、チームとしての実力に遙かに勝る相手に連勝。これで得た自信は、エジプトを圧倒する力にはなりましたが、メキシコ相手には、逆効果になりました。本来は小学生と高校生くらいの差がある日本とメキシコ。メキシコとしては、本番前の予行演習で日本の実力と警戒すべきポイントは分かっていたでしょうから、自信を持って試合に入ってきたと思いますが、まさか自分たち相手にいきなり玉砕戦術で来るとは思わなかったでしょうね。戸惑いました。その結果、前半20分までは今大会で最高の日本チームが出現しました。


 ただ、そこで「ラッキー」が起こらなかったことで、メキシコは落ち着き、日本は電池切れになった。サポーターの中には「フィジカルコンディションが良く、スタミナが切れなければ勝てた」と思う方もいらっしゃったようですが、事実は、フィジカルコンディションを下げ、スタミナが切れるサッカーを日本が続けていただけで。加えて、ラッキーの連続という環境下である種の躁状態だったはずで。そんな状況で勝ち上がっていけば、いずれこうなるのは自明の理。スペインに勝った瞬間、あるいはモロッコを倒した瞬間から、日本はこの「決まったゴール」へ向けただがむしゃらに走ってきただけの大会だったと言えます。電池の残量を気にせずひたすら放電してきたチームが、最後に電池切れになったことを敗因とするなら、最初から間違っていた、それだけのことです。電池の使い方に問題があった=勝ち方に問題があった=そうじゃなかったらスペインの目を覚まし、モロッコに惨敗し、勝ち点0でホンジュラスと戦い、良くて勝ち点1。戦前に予想したオリンピックの「成果」にすんなり辿り着いただけのことでしょうね。私はそれで良かったと思いますが…。


 勿論、それでも準決勝まで進んだことは、讃えても良いと思います。高校野球的精神に則れば、立派な成果です。ただ、もう一つの「現実」が3位決定戦、ある意味最も重要なメダルを賭けた一戦でがむしゃらJAPANを待ちかまえていました。現実は韓国という形を取って日本の前に現れました。


 スタミナに物言わせて走り、ペース配分を考えず相手を追い詰め自滅に導く。これは2002年のW杯で韓国がやったサッカーであり、更に言えば韓国がずっと土台としてきたサッカーの延長線上にある戦術プランでした。更にその上にヒディンクという稀代の「モメンタム」を見抜く天才がベンチに構えていました。当時の韓国サッカーは、国際的には「ラッキーの連続」で準決勝へ行ったと見なされましたし、日本国内では特にやっかみ半分で、対戦相手を貶めることで韓国を認めない、的な風潮も目立ちました。それでもあの時の韓国サッカーは、自国が積み重ねてきたモノの先に新しい要素を足して結果を出した、立派なチームだったと思います。


 日本の前に3位決定戦で立ちはだかった韓国チームには、日本が突然変異で辿り着いたサッカーをずっとやってきて、欠点も長所も知っているチーム。それを誰より知っている監督。それだけに「こんなチームには負けられない・負けるはずはない」という気持ちだったんじゃないですかね。初のメダルを賭けた試合と言うこともあり、韓国の選手は気持ちが前に出て、やや前に出すぎた状態で試合に入ってきました。そして日本は躁状態。勿論接触は増え、日本選手の方が良く転ぶ。カードが出る。試合が荒れそうになる。日本のサポーターは「韓国の挑発に乗るな!」と言う。でも乗るはずがないんです。最初から躁状態なんですから。何も見えてないんです。ただただがむしゃら。


 躁状態のまま前掛かりになったところを奪われ、一発で通されて先制点。2点目もカウンター。ある選手は「蹴るだけのサッカーに負けた」という趣旨の発言をしたようです。相手からすれば「ペース無視して走るだけのサッカーに負けた」と思っているでしょうし、韓国の選手は「走るだけのサッカーに俺たちが負けるはず無いでしょ」と思ったのではないでしょうかね。W杯の韓国と違い、今大会の日本が何か足跡を残せたでしょうか。韓国ですら、2002年以降はあの結果がサッカーの方向性を誤らせた感があります。自分たちのスタイルではないサッカーで世代限定大会で4位になった。多分、数年後には日本人以外は全員忘れているでしょうね。その時にまだ日本サッカーの中にこの「事故」の影響が悪い形で残っていないと良いのですが…。


 なにより、一番辛かったのは、このチームがベンチの助けをまったく得られなかったことです。更に言えば、得られないことが最初から分かっていたことです。だからこそ、スペインに勝って「しまった」時も、最後は悲劇的な結末を向かえることは分かり切っていましたし、そこへ向け、盛り上がっていくサッカーファンを悲しい気分で見ていました。選手交代の無策さ、更にその交代させるべき選手の選考。最初からこのチーム、この監督には失敗する要素が決定的に揃っていました。奇跡とは言え、成功の山が高ければ高いほど、現実という谷は深くなります。落ちるために登っていたチーム。辛いことです。


 日本ほど五輪を大事にしている国はそうそう無いと思いますが、一方で今大会のチームほど五輪を舐めているチームもそうそう無かったと思います。準備不足も甚だしい。選手選びにも、OA選びにも本気を感じない。所属チームの事情などはあったにせよ、本気で挑んだとは到底言えないこのチームが、メダルを取ってしまっては、アトランタのチーム、シドニーのチーム、アテネのチーム、北京のチームが気の毒ですし、失礼ですし、何より加茂や岡田など日本人監督の前で「停滞」した時代こそあれ、外人監督の元、紆余曲折有りながらも「成長」してきた日本サッカーを「後退」させることにもなりかねない。心底、メダルを取らなくて安堵しています。


 従来、敗戦からは勝利よりも学ぶ要素が多い。成長できる要素が多い。しかし今回の男子サッカーチームからは学ぶモノは何もありません。強いて言えば勢いに身を任せる怖さ、と言う教訓ですね。このチームに関わった選手達は、今後相当気張らないと、フル代表に足跡は残せないと思います。一刻も早く目を覚まして、現実の戦いで底上げをしなくてはいけません。良い選手、好きな選手は多いチームだったので頑張って欲しいです。特に酒井宏と清武はよりスケールアップしてフル代表のスタメンを奪う選手になって欲しいですね。


 そして宇佐美。彼はこのチームの、関塚の犠牲になりました。間違った使われ方しかしなかった。後半から使うのはまだ良いとして、前に無駄に人数を増やしてスペースのない中では彼の個性は活きないし、チームとしても活かす術はなかった。世代のエースになれる器。バイエルン移籍に続き、もう一つの遠回り。巻き返してくるか、一層の注目をしたいですね。


 この3人を除くと…今のところフル代表でどうこう言う選手は居ません。あるいは酒井高。あるいはボランチの2人。この辺は食い込んでくる可能性はありますけど…守備の選手は吉田とプレーした経験がプラスになって欲しいし、しなくては行けないと思います。


 とにかくね、日本は下の年代を日本人の一流とは言い難いランクの指導者に任せるのは即刻やめた方が良いです。今は年々海外に若手選手が飛び出す時代。ただ急激に需要があるからこそ、行った先のチームで無駄な時間を過ごす選手の数も、今後は増えるでしょう。本来の持ち味と違った部分を求められ、歪められる選手も増えるでしょう。その中で、代表に集まった時得る「本来の立ち位置」はこれまで以上に重要になる。そこを与えられるだけの監督が今の日本にいるでしょうか。ある意味、求められる仕事はフル代表の監督以上に難しく、過酷です。フル代表を到底任せられない監督にそれを任せて良いんでしょうか。むしろ下の年代こそ外人監督に任せ(出来れば日本のクラブ指導経験もある監督が良いですねえ)、一本の筋を通す仕事をして欲しいと私は思います。あるいは、代表間の連動性を考えるのであればフル代表と同じ人に任せるべきです。ザッケローニのサッカーにもたらすモノのないチームを作ってしまうような日本人監督に、未来ある選手を任せるべきではありません。次の監督が誰になるかは分かりませんが…かりそめの成功という張り子を背負い、現実の中身を伴わせていく大変な仕事になります。まともな監督ではやりたがらないでしょうね。頑張って良い人を選んで欲しいですね。少なくともこんな高校生まがい、戦前まがいのおぞましいサッカーをさせる/止められないような指導者は、二度と近づけないで欲しい。年代別代表が、選手の未来を積むようなチームであってはいけないと思います。


 女子サッカーの継続性と、男子サッカーの劇的な変化に、今年の秋冬は期待したいです。

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