安心した。

yambalu2006-01-21


私は須藤真澄のファンです。氏の描く、なんだかはかなげな少女とか、冒険心に満ちた少年とか、味わい深い大人とか、大好きです。
世間で「須藤真澄好きだー」というと、「ああ、ネコマンガ」「ネコ好きなんだ」と言われますが。正直、あまり「ゆず」関連の氏のマンガは好きじゃないんですよね。というか、動物への愛情を第3者に見せるという行為があまり好きではない。それは、一人と一匹の中で秘蔵して、高め続けるものだと思うし、他人の愛情は共感は出来ぬ。根本的に動物大好きなので、動物番組も余さず録画してみているが、ドキュメンタリーとお気楽ものが好きで、愛情物語は好きじゃない。正直、反吐が出る。なぜならそれが「感動させるためにピックアップされたテーマ」であり「数字を取るための意図にからめとられた悲劇性」だからだ。その登場人物や動物愛を否定する気は全くないが、それを放送するテレビ局、見て泣いてる生き物たち、それを眺めて不快になっている俺。それら全部、反吐が出る(ペット愛情ものを見て、泣いている彼女に共感せず非難されて別れたことがあるくらいだ。それから「動物モノは家族以外とは絶対見ない」と決めた)。
氏を好きな私が、一番心配してたのは「フィニッシュ」をどうするんだろう、と言うこと。動物は必ず死ぬ。99%、飼い主より先に死ぬ。みんな、それが分かっていて、飼っている。
大事なのは、動物の「生」と同じ心で、「死」に向き合うこと。これは人それぞれだろうが、私は動物が死んで、喪失感に任せ、悲しみ続けたり、ふさぎ続けたりするのが嫌いだし、そうする人も嫌いだ。繰り返すが、これは個人の問題なので、相手に面と向かっては絶対言わない(そんなことしたら、どうなるかくらいはアホでも想像がつく)。だが、嫌いという感情も否定は絶対しない。
で。氏の「溺愛」の結末にある事象に、昔からずっと危惧を抱いてきた。「ゆず後」もマンガを書き続けることが出来るのか(続けるには、あまりに氏の「創作活動」がゆず中心に動き、ゆずの影響を受けて作品性に変化が見受けられる事実)。恐らくごまんと届く読者や知人の「告別」の文書(これも、気持ちは分かるが、嫌いだ。そういう時ほど放っておいて欲しい。俺はそうだ。競走馬が死んだ時に「感動をありがとう」という人間とは一生交われない。ゆずはマンガになった「公猫」なので、完全シャットアウトは出来ないが、共感して、寄り添う声が、傷口を逆撫でし続けるものでしかない、自己満足に過ぎない事実も、知っている。人間は他人の不幸に「可哀想」という時は、「人の不幸を可哀想と言って、一緒に悲しむ自分」に陶酔しているに過ぎず、相手のことはあまり考えていないものだ)を見て、冷静でいられるのか。氏のファンとして、暴言を承知で言うとペットが死んだ「程度」で仕事を辞めてしまわないで欲しい、と願っていた。
ビームで、リアルタイムにゆずの死を知った。「おさんぽ」の前編を読み、悲しいのと同時に、不快感を感じ「後編読みたくねえなあ」と感じ、ビームの次号は読まなかった。その後「庭先案内」を見て、越えたものを確認して、安心した。後編の内容は気になったが、単行本(乗り越えたのを見た時点で、単行本にするであろうことは容易に確信できた)で確認しようと待った。
で。単行本を読んだ。正直、後編を読んだ時は「ひでえなあ」と顔をしかめたが、その後の話を読んで、安心した。それは一番望んでいた「乗り越え方」だった。否定する人、ひょっとしたら「非難」する人もいるかもしれない。でも自分は嬉しかった。須藤真澄がもっと好きになった。好きな作家が、志のある、心根の強いプロで良かった。「ダメかも」と思った自分を恥じた。
越えることは、忘れることとは別のハナシ。操を立て続けたい人は、そうすればいい。その人を他人が非難する権利はない。逆も当然然りだ。世の中の誰にも、「自分の勝手な思い入れの投影対である須藤真澄とゆず」を、本人に強制する権利はない。それは最も恥ずべき行為。
平凡な言葉だが、ゆずの存在は氏の中で勿論、読者一人一人の中で消えることはないし、また、ゆずが好きだった人ほど、氏の描く今後のねこマンガで「ああ、ゆずとはこんなに違うなあ」と思い返せばいい(自分とウサギの場合、今飼っている「エメ」を見て、前に飼っていた「コンロ」との違いに一喜一憂することは、この上ない楽しみで、自分の特権である。自分もコンロが死んでから4ヶ月でエメを飼いだした)。それが出来るのは、須藤真澄があのようなマンガを書いてくれたからであり、死を隠さず読者に晒してくれたお陰である。感謝しなければいけない。独占的な権利を、喜怒哀楽欠落させずにマンガで共有させてくれた寛大な氏に感謝しなければいけない。
とにかく、自分は須藤真澄がもっともっと好きになった。それだけ。

長い長いさんぽ ビームコミックス

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